環境分野 快適な環境や生物多様性の保安全を支える調査研究

安威川のアジメドジョウの保全に関する研究

安威川のアジメドジョウの保全に関する研究

環境研究部 自然環境グループ (生物多様性センター)

写真1. アメドジョウ

中部・近畿地方に分布するアジメドジョウNiwaella delicata(写真1)は,日本固有種で分布域が局限されることから生物地理学的に注目されています.とくに大阪府の個体群は,本種の分布域西限にあ たり(図1),分布域の成立過程を明らかにするために重要な存在ですが,その個体数は少なく,環境省レッドリストでは絶滅の恐れのある地域個体群として指 定されています.また,府内では北部を流れる安威川(図2,写真2)にしか生息しませんが,安威川では多目的ダムの建設計画が進められており,その影響も 懸念されています.全国的にみても本種の生息環境に関する調査例は少なく,当センターでは,アジメドジョウの保全のための生息環境研究を行っています。

図1.アメドジョウの地理的分布

 

写真2.安威川の風景

 

図2.安威川の位置

 まず,潜水目視調査によって,安威川におけるアジメドジョウの分布域は,安威川のうちでも河床勾配の大きな本流の流路長約2kmの限られた水域であることが明らかになりました.なお,安威川個体群は生息数が少なく,小規模な採集であっても個体群に与える影響は大きいと考えられるため,ここでは調査地点の位置の詳細については個体群保全の見地から公表しません.
 アジメドジョウは一般的に清冽な河川の中上流域に生息します.また,生態としては,春・夏には石礫の多い瀬で付着藻類等を摂食し,秋季になると河床の湧水に潜入,越冬・産卵すると言われています(丹羽 1976).そこで低標高の生息地である安威川では,夏季の水温,水質,河川形態,底質,湧水の多さなどが生息を制限する要因となっているのではないかと考えて生息水域と非生息水域にそれぞれ調査地点を設け,生息環境の比較を行いました.
 環境比較の結果,生息水域は非生息水域に比べ夏季の水温が低いこと,河川形態が多様であること(瀬や淵がバランスよく配置していること),浮き石(石が積み重なり石と石の隙間が空いた状態の石)や湧水が多いことが明らかになりました.
 これらの環境をアジメドジョウが好む理由としては,まず湧水が多ければ越冬・産卵のために好適であること,浮き石については隠れがとしての利用することなどが考えられます.また水温については,一般にアジメドジョウは冷水性の魚といわれており,田中・岩谷 (1999)は福井県のアジメドジョウを用いて高水温耐性試験を行い,一定水温(28℃)を超えると活力の低下,斃死が急激に進むと報告しています.最高水温が30℃を超える安威川では生息を制限する要因となっているのかもしれません.
 さらに環境要素の相互関係も考えられ,たとえば河床には浮き石が多いほど河床の透水係数が大きくなることが知られており(村上ほか 2001),今回の調査でも湧水密度と浮き石度には有意な相関関係が認められ,浮き石が多いほど湧水も多くなりました.さらに,湧水の発生は河川の形態とも関係しており,瀬淵のつながりとの関連が提示されています(図3,Hendricks 1993).このモデルでは,上流側の淵の底で河床へと浸透した水が下流の瀬で湧水として湧き出すとされており,調査結果で示されたような瀬淵の多い場所ほど,湧水も多いと考えられます.
 

写真3 大阪・京都府境付近の風景

図3.瀬淵のつながりと湧水の発生の概念図

【アジメドジョウの保全にむけて】

 安威川で最初にアジメドジョウの生息が確認されたのは京都-大阪府境付近です(水野 1968),しかし,今回の調査で明らかになった水域はもっと下流であり,府境では全く生息が確認できませんでした.今回も含めて,1960年代以降の生息は確認できておらず,絶滅したものと考えられます.府境の環境を調べてみると,この付近は浮き石が少なく,河床には粒径の小さな土砂がいっぱい詰まっていました.さらに他の地点に比べ水温変動が激しく,最高水温は調査地点中で最も高くなりました.また,平瀬が大半を占めるなど単調な河川構造となりアジメドジョウの生息に不利な特徴を示していました(写真3).
 生息当時の府境の環境に関するデータは残されていないのですが,アジメドジョウの生息の確認ができなくなったのは,河川周囲の開発(砕石場)と同時期であることを考えると,流域開発との関係を考えざるを得ません.とくに粒度の小さな河床材料が大量に堆積することの原因としては,周囲の砕石場などからの過剰な土砂供給が考えられます.アジメドジョウの好むような瀬淵や,浮き石が多い環境を維持するためには出水による攪乱と適正な土砂供給とのバランスが必要不可欠だといわれていますが(大田・高橋 1999),そのバランスが崩れた結果,現在の状況になったのでないかと考えられます.また,砕石に伴う周囲の森林伐採は,河川の水温上昇抑制に効果のある河畔林の消失や,支流や枝谷など流れ込みの水量減少などの現象を引き起こしているのではないかと懸念されます.
 これらのことから考えて,残されたアジメドジョウの生息水域を保全していくためには,流域周囲を含めた総合的な保全管理が必要であると考えられます.しかし,現在の生息水域の上流(支流)では今後ダム建設のための原石の採掘やその運搬路の建設が予定されており,支流に流れ込む土砂の堆積が懸念されます.また,生息域の一部はダム建設後には一時的に湛水化することも明らかになっており,その影響についても注意深く見守っていかねばなりません.なお,ここに示した研究結果は,大阪府立食とみどりの総合技術センター研究報告40号(33-40pp)および日本魚類学会の発行する魚類学雑誌53卷(39-46pp)に発表したものをまとめました.

---引用文献

  • 後藤宮子.1996.アジメドジョウ.Page188-193in淡水魚,日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(Ⅲ).(社)日本水産資源保護協会,東京.
  • Hendricks,S. P. 1993. Microbial ecology of the hyporheic zone: a perspective integrating hydrology and biology. J.N.Am.Benthol.Soc., 12(1):70-78.
  • 水野信彦(1968).大阪府の川と魚の生態-大阪府下における河川漁業権漁場の実態調査報告書-.大阪府水産林務課.
  • 村上まり恵・山田浩之・中村太士.2001.北海道南部の山地小河川における細粒土砂の堆積と浮き石および河床内の透水性に関する研究.応用生態工学,4(2):109-120.
  • 丹羽彌(1976).あじめ.アジメドジョウの総合的研究.大衆書房,岐阜.pp 226.
  • 大田猛彦・高橋剛一郎(編).1999.渓流生態砂防学. 東京大学出版,東京. 246pp.
  • 田中直幸・岩谷芳自(1999).有用魚種生態調査事業(アジメドジョウ).福井県内水面総合センター平成9年度事業報告書,8-17.
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