大阪府立環境農林水産総合研究所

 

大阪府水産試験場研究報告 第12号

大阪府水産試験場研究報告   第12号

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大阪湾におけるガザミの生態と資源培養に関する研究

1.ガザミ漁業の概要
2.ガザミの生態
3.ガザミの栽培漁業
4.ガザミ資源培養への提言
 

大阪湾におけるガザミの生態と資源培養に関する研究

有山啓之
Studies on Ecology and Stock Enhancement of Swimming crab
Portunus(Portunus) trituberculatus
in Osaka Bay
Hiroyuki Ariyama

大阪水試研報(12):1~99,2000
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(12):1~99,2000

本研究では,大阪湾における重要な漁業資源であるガザミについて,天然群の生態特性および放流種苗の資源添加状況や 放流効果等を解明し,これらの結果を基に資源培養方策を検討した.各章で得られた結果の要約は以下の通りである.

1.ガザミ漁業の概要

ガザミは大阪府では主に小型底曳網の一種の石桁網で漁獲される.1980~1995年における大阪府のガザミ 漁獲量は28~60トンと低かったが,1996年は近年にはない118トンの好漁獲があった.単価は3,000円/kg前後と高く, 大都市近郊型漁業の利点と考えられた.

1983~1998年における石桁網漁業者の操業日誌をまとめたところ,年間操業日数は145~197日(平均164日)で, ガザミの年間漁獲尾数と年間漁獲金額はそれぞれ555~9,268尾(平均3,198尾),56~225万円(平均118万円)と変動が大きかった. また,CPUEは8~9月に高いがその後急減し,1~6月に低レベルとなった.

2.ガザミの生態

ガザミの生態特性として,飼育と野外調査から成長を調べるとともに,漁業者の操業日誌と試験操業により分布を明らかにした.

7月に孵化させ飼育した稚ガニ(甲幅14~26mm)および大型の漁獲個体(甲幅166~233mm)をコンクリ-ト水槽で飼育し,ガザミ の脱皮と成長を調べた.稚ガニは11月までに大部分が10~11齢に達し平均甲幅は雌115mm,雄108mmであった.越冬後は2~3回 脱皮して11月には12~13齢に達し平均甲幅は雌183mm,雄190mmとなった.また,漁獲個体の脱皮は雌雄とも年間1回で,その 時期は雌は8~9月,雄は8月頃と考えられた.脱皮齢と甲幅の関係はロジスティック式で表され,脱皮前後の甲幅の関係は雌 雄とも成熟前の9-10齢の点で屈曲する直線で表された.

次に,浅海域での稚ガニ調査と漁獲物調査を行いガザミの成長を推定した.浅海域には4~11月に稚ガニ が生息し,7月に出現後9月頃沖合に移動する群と,8~9月頃出現し10~11月に移動する群,翌年の7~8月に移動する群の3群 に分けられた.漁場への加入時期は7~11月で,加入群は浅海域の群と対応し,11月における平均甲幅は7~8月加入群:181~182mm, 9月加入群雌:169~172mm,同雄:148~152mm,10月加入群:144~152mm,11月加入群:105~115mmと推定された.成長曲線としては ロジスティック式がよく適合した.

石桁網漁業者の操業日誌を解析した結果,ガザミの多獲漁場は,7~8月は大阪湾北中部,9~10月は中南部の場 合が多く,その付近における育成場の存在が示唆された.それ以降は集中的な分布は見られず,大阪湾東部の水深10~20mの泥底に 広く分布するものと考えられた.

大阪湾奥部(水深9~15m)で石桁網試験操業を行ったところ,秋~春に甲幅100mm未満の小型個体が多数生息して おり,幼稚仔保育場となっていることがわかった.しかし,夏季にはほとんど生息がなく,貧酸素化のために逃避したものと思わ れた.また,1996年の豊漁は,前年晩期発生群が湾奥部に大量発生したことが原因と考えられた.

3.ガザミの栽培漁業

大阪府におけるガザミ種苗放流は1967年から開始され,毎年継続されている.1990年以降はすべての種苗が 中間育成されており,最近では70万尾以上の3~4齢種苗が放流されている.

 放流稚ガニの被食は11種の魚類で確認された.被食されたのは1~4齢稚ガニで,特に3齢までが多かった. 捕食者の中ではトビヌメリ等のネズッポ類が重要と考えられた.全長108~182mmのトビヌメリを用いて1~4齢稚ガニの捕食実 験を行ったところ,トビヌメリは1~3齢稚ガニを捕食し4齢稚ガニは捕食しない,また,1尾当たり24時間の平均捕食尾数は, 1齢稚ガニ79.6尾以上,2齢稚ガニ22.4~23.1尾,3齢稚ガニ3.3尾であることが明らかになった.

陸上水槽での中間育成は,付着材を多量に設置することにより生残率の向上が可能で,1987年は4~5齢稚 ガニまでで30.0%,1988年は3~4齢稚ガニまでで42.0~48.8%の生残率であった.

1989年と1990年に阪南市尾崎地先の砂浜で,海上囲い網によるガザミの中間育成を行った.施設はオイル フェンス式で網地製付着材を垂下し,害敵駆除はサラシ粉散布により行った.1989年は1齢稚ガニ69万尾を収容し,クルマエビ 用配合飼料を投餌して2~3齢稚ガニまで育成した結果,17日間で歩留り12.3%,1990年は1齢稚ガニ59万尾を収容し,ツノナシ オキアミを投餌して3~4齢稚ガニまで育成した結果,14日間で41.7%であった.1989年の低歩留りの原因は害敵駆除の不徹底と 餌料の不適で,1990年はこれらの解決と共に,内部に生育していたオゴノリが付着材として共食い防止に役立ったため,高歩 留りになったと考えられた.

陸上水槽で中間育成した種苗の脚脱落状況を調べたところ,平均脚脱落数は1尾当たり10本中1.36~2.49本 (平均1.94本)と高い値を示した.また,脚脱落個体を用いた潜砂実験の結果,潜砂能力は歩脚の有無により大きく変化した. 脚の脱落は健苗性を低下させることから,軽減が必要と考えられた.

1981年に阪南市西鳥取地先の砂浜で1齢稚ガニの直接放流を行った.翌日の定着率は1.0%と低く,放流当 夜に多数観察された浮上逸散やアイナメで確認された被食がその原因と考えられた.逸散した稚ガニについても被食される可 能性が高く,直接放流では効果が望めないと推察された.1982年に陸上水槽で3~4齢まで中間育成して同所に放流したところ ,2日後の定着率は11.2%で,種苗大型化の効果が認められた.

1989年と1990年に海上囲い網で中間育成後放流されたガザミ稚ガニについて,抄い網による追跡調査を行 った.1989年は3齢稚ガニ8.4万尾を放流したところ,放流直後の減耗はなく直接放流分を含めて8.9万尾が定着したが,時間 の経過と共に生息個体数は大きく減少し,放流53日後以降沖合へ移動した.1990年は4齢稚ガニ主体で24.6万尾を放流したが, 定着個体数は8.5万尾で定着率は35%と低く,高温や乾燥による斃死と逸散が原因と考えられた.定着してから放流35日後ま では隣の浜への移動はあったが合計生息個体数は減少せず,その後沖合へ移動したと推定された.

DeLury法により操業日誌等から石桁網の漁具能率を推定し,大阪湾における成長漁獲モデルを構築した.1990年放流群24.6万 尾について,このモデルを用いて放流効果を計算した結果,放流による漁獲尾数は76,919尾,漁獲重量は12,416kgであった. また,回収率(漁獲尾数/放流尾数)および放流尾数1万尾当たりの漁獲重量と漁獲金額については,それぞれ31.3%,505kg, 151万円となった.

4.ガザミ資源培養への提言

大阪湾におけるガザミ資源培養には何が必要か,放流技術,資源管理および環境改善の各面から検討し,以下のような提言を行った.

安定した漁獲を得るためには,積極的な種苗放流が必要である.放流技術としては,南部の砂浜では,築堤池等で育成した4齢稚ガニを6~8月に4尾/m2程度の密度で放流することが適当である.貧酸素の解消した9 月以降に湾奥部の泥底へ放流することも有望と考えられるが,放流技術の開発が必要である.

大阪湾では漁獲努力量が過多であるため削減すべきである.1993年から大阪府漁連が小型底曳網漁業の週休2日制と甲幅120mm以下の小型ガザミの保護を実施しており,この方策は現状から考えて妥当といえる.今後は規制の遵守を目指して啓発を続けるとともに,管理効果を定量化していく必要がある.

大阪湾は埋立てにより稚ガニの生息場である浅海域が激減しているため,全域にわたって砂浜や干潟を回復させる必要がある.また,湾奥部における資源増大のために,夏季の貧酸素化を軽減させることが必要である.

今後の問題点として,浮遊期の生態と種苗放流による遺伝的影響の解明が挙げられた.

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