大阪府立環境農林水産総合研究所

 

大阪府水産試験場研究報告 第10号

大阪府水産試験場研究報告   第10号

全文(PDF 7.1MB)  目次(PDF 210KB)

 

  1. 大阪湾における魚類卵稚仔の鉛直分布について
  2. 大阪湾奥部における大型底生動物の動態についてⅢ.出現種のリストおよび他海域・過去との比較
  3. 大阪湾におけるマコガレイの漁業生物学的研究
  4. 大阪湾産シログチの漁業生物学的研究
  5. 大阪湾におけるサルエビの成長と成熟

大阪湾における魚類卵稚仔の鉛直分布について

山本圭吾・中嶋昌紀・辻野耕實
Vertical Distribution of Fish Eggs and Larvae in Osaka Bay
Keigo Yamamoto ,Masaki Nakajima and Koji Tsujino

大阪水試研報(10):1~18,1997
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(10):1~18,1997

目次(PDF 2.23MB)

要約

1994年6月と8月に大阪湾の7定点においてMTDネットの多層曳きによって採取された魚卵、稚仔魚を用いて夏期における魚類卵稚仔の鉛直分布を記述した上で、水温、塩分の鉛直分布との関係について検討した。 

1. 6月は魚卵38,562粒(4種、3科、10群)、稚仔魚4,281尾(27群)、8月は魚卵8,570粒(2種、4科、9群)、稚仔魚6,293尾(33群)が採集された。

2. 6月、8月とも多くの種で中底層に分布する傾向があり、その傾向は稚仔においてより顕著であった。そのため表層曳きでは卵稚仔の出現や分布を正確に把握することは困難であると考えられた。

3. 多くの稚仔で深い定点(水深20m以深)と浅い定点(水深20m以浅)で分布の傾向に違いが見られ、深い点で中層に分布していた種でも、浅い点では表層に集中分布するものも見られた。

4. 今回の結果と他海域の知見を比較すると、深い定点と浅い定点で分布の傾向に違いが見られる稚仔は主に中層性とされる種であり、その分布形態は深い点では一致するものの浅い点では一致しない傾向が見られた。

5. 夏期の大阪湾においては、ある程度水深があり、水温、塩分の鉛直勾配が比較的緩やかな海域では種による一般的な鉛直分布の傾向が見られるが、水深の浅い海域では鉛直方向の環境の変化が大きく、卵だけでなく稚仔においてもその分布が環境の鉛直構造に影響される可能性が示唆された。

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大阪湾奥部における大型底生動物の動態について
3.出現種のリストおよび他海域・過去との比較

有山啓之・矢持 進・佐野雅基
Dynamics of Megabenthos in the Innermost Area of Osaka Bay
Ⅲ.Species List and Comparison with Other Sea Area and the past Osaka Bay
Hiroyuki Ariyama ,Susumu Yamochi and Masaki Sano

大阪水試研報(10):19~27,1997
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(10):19~27,1997

目次(PDF 592KB)

要約

1)大阪湾奥部で底曳網により採集された大型底生動物136種のリストを示した。

2)他の内湾域と比較したところ、大阪湾奥部の動物相は、東京湾・伊勢湾・博多湾とはやや異なるが、大阪湾南部とは類似し、大阪湾全体の動物群集のうち比較的内湾的なもの、富栄養化に強いもので構成されていると推察された。

3)過去の大阪湾奥部の知見と比較したところ、1956年頃は現在よりはるかに漁場環境がよかったが、1970年代は環境悪化により生物相が貧困であったことが窺われた。

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大阪湾におけるマコガレイの漁業生物学的研究

辻野耕實・安部恒之・日下部敬之
Fisheries Biology of the Pleuronectid Flounder Pleuronectes yokohamae
in Osaka Bay
Koji Tsujino ,Tsuneyuki Abe and Takayuki Kusakabe

大阪水試研報(10):29~50,1997
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(10):29~50,1997

目次(PDF 2.28MB)

要約

1) 1985~1990年の間に大阪湾で漁獲されたマコガレイの生物資源調査および1955年以降の漁獲統計数値の解析により、以下の結果を得た。

2) 大阪府におけるマコガレイの漁獲量は1955~1970年代前半まで横這いないしやや減少傾向にあったが、その後増加傾向に転じ、高水準で推移 しているものと推察される。

3) マコガレイの全長(TL:mm)と体重(BW:g)は指数関数で近似され、以下の関係式が得られた。

雌:BW=7.653×10-6・TL3.121

雄: BW=2.805×10-5・TL2.868

4) 雌の肥満度は4、5月に最も高くなるが、その後は徐々に低下し、産卵期である12、1月に最低となる。また、雄も雌と同様の傾向がみられるが、 雌よりもその変動幅は大きい。

5) 耳石の透明帯は5~11月に、不透明帯は12~4月にそれぞれ年1回形成される。

6) 耳石の輪紋径よりマコガレイの成長を推定し、次式を得た。(tは年齢、Ltはt歳に対応する全長:mm)

雌 Lt=334.1[1-exp{-0.557(t-0.413)}]   雄 Lt=260.8[1-exp{-0.769(t-0.342)}]

7)生殖腺を指標とし産卵期を推定した結果、大阪湾におけるマコガレイの産卵期は12~1月で、他の海域の報告とほぼ同様であった。 また、雄の成熟期間は雌よりも長期に及ぶことが判った。

8) マコガレイの全長(TL:mm)と孕卵数(EN:粒)とは指数関数で近似され、以下の関係式を得た。また、同じ大きさの個体では大阪湾産の方 が他の海域産よりもたくさんの卵を産出する傾向がみられた。

EN=0.00817×TL3.230

9)性比は月により差がみられたが、全体としてほぼ1:1であった。各年齢別の成熟割合は1歳魚(1年11ヶ月、ほぼ満2歳)で62.5%、2歳魚 で90.5%、3歳魚以上では100%であった。10)大阪湾におけるマコガレイの主着底場は湾北部の沿岸域である。

11) 1988年にはマコガレイは大阪府で約281万尾漁獲され、小型底びき網(約134万尾)と刺網(約142万尾)で大阪府全体の98.3%を占めた。 最も多く漁獲されたのは1歳魚で全体の87.4%、次いで2歳魚、3歳魚が多かった。

12) 資源診断の結果、大阪湾ではマコガレイは乱獲状態にあった。

13) マコガレイは季節により沿岸、沖合(東西方向)移動をするが、全般的に漁獲尾数は北部域で南部域よりも多い傾向がみられた。

14) マコガレイは12~2月の産卵期やその前後で特異な分布様式を示す以外、概ね沿岸域では小型個体が、沖合域では大型個体が、また 分布密度の高い海域では小型個体が、分布密度の低い海域では大型個体が多い傾向が認められた。

15) 既述のことに幼稚仔魚期の知見も含め、マコガレイの移動様式を推定した結果、マコガレイの移動と漁業種類別の漁獲量の変化はよく 一致しており、マコガレイの分布、移動とそれを漁獲する漁業の操業形態や漁場、漁獲量との間に密接な関係のあることが判った。

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大阪湾産シログチの漁業生物学的研究

吉田俊一・坪田憲夫・辻野耕實
Fisheries Biology of the White Croaker,Argyrosomus argentatus(HOUTTUYN),
in Osaka Bay
Shun-ichi Yoshida ,Norio Tsubota and Koji Tsujino

大阪水試研報(10):51~58,1997
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(10):51~58,1997

目次(PDF 780KB)

要約

1)シログチが主体と考えられるニベ・グチ類の漁獲量は大阪湾を含む瀬戸内海全域で19 80年以降には回復の傾向がみられ、大阪湾では小型底びき網(板びき網)、底刺網、釣り (一本釣)で漁獲されている。

2)鱗における輪紋は年1回、大阪湾では第1輪は5月に、第2~6輪は5~8月に形成される。

3)全長(Lcm)および体重(Wg)における成長式は

Lt=334.63(1-e-0.409(t+0.425))

Wt=503.26(1-e-0.409(t+0.425))3.143

で示される。

4)性比(雌:雄)は概ね1:1である。

5)生殖腺熟度指数の変化から推定した産卵期は7~8月である。

6)卵巣内卵の卵径組成から産卵は数回に分けて行われると推定される。

7)全長(Lmm)と抱卵数(E粒)との間には

E=0.0031L3.285

の関係がみられる。

8)大阪湾での成熟最小個体は全長149mm(1年魚)であった。

9)当年魚から6年魚までの主餌料は甲殻類であるが、全長160mm以上では魚類の比率が増加する。

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大阪湾におけるサルエビの成長と成熟

日下部敬之
Growth and Reproduction of Southern rough shrimp Trachypenaeus curvirostris
in Osaka Bay Takayuki Kusakabe

大阪水試研報(10):59~69,1997

Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(10):59~69,1997

目次(PDF 1.09MB)

要約

1.1988年6月~1990年5月の間にサルエビの生殖腺熟度に関する調査を行い、その結果から大阪湾におけるサルエビの産卵期が5月上旬から10月上旬までの約5ヶ月間で、盛期は5月中旬~9月下旬であることを明らかにした。

2.1992年6月22日に漁獲されたサルエビの卵巣の組織観察を行い、その特徴について記述した。卵巣内には成熟度合いの異なる卵母細胞が同時に存在しており、サルエビは1シーズンに複数回の産卵を行うものと推定された。

3.1977年から1979年にかけて大阪府立水産試験場で測定されたデータを用いて、体長-頭胸甲長関係式、体長-体重関係式を導いた。

4.1989年の5~12月の間に得られたサンプルの体長組成から、寿命と成長について検討した。大阪湾のサルエビの寿命は約1年であると考えられた。また成長については、産卵期の初期に生まれた個体と後期に生まれた個体とではかなり差がみられた。すなわち産卵期の初期に生まれた個体は年内にメスで60mm余り、オスで50mm程度に成長し、翌年5月以降再び成長してメスで100mm、オスで70mmになって7月いっぱいで死亡するのに対し、産卵期の後期に生まれた個体は、年内には雌雄とも30mm程度にしかならず、翌年春以降成長してメスで約80mm、オスで60mmあまりになって8月~9月中に死亡するものと考えられた。またこれらの調査結果を過去の報告と比較検討した。

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