大阪府立環境農林水産総合研究所

 

大阪府水産試験場研究報告 昭和29年

大阪府水産試験場研究報告 昭和29年  全文(PDF 3.07MB)

大阪湾重要魚種生態調査  1カタクチイワシ

巻田一雄
Kazuo Makita

大阪水試研報:1~20,1954
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.:1~20,1954

要約

1)本編は大阪湾におけるカタクチイワシの生態に関する報告である。

2)5-11月間における月別体長組成は少なくともA-Dの4群体があって、これらの季節的変化は5月65.0-80.0mm度の比較的大形魚のみで、この一群は9月には体長90.0mmに達する(A群)。6月に入ると体長35.0-50.0mm程度の小形群(B群)がA群に混じって漁獲される。このB群は9月に75.0-80.0mmに達するが、9月になると更に体長55.0-60.0mm 程度の小形群(C群)が前記A,B群に混じって漁獲される。10月に入って更にB、C群に混じって体長50.0-55.0mm(D群)が現われる。

3)成長は満1カ年で大体、体長100.0mmに達し以後あまり成長しない。満1カ年の成長度は 1つの曲線で現わされる。即ち孵化後2ヶ月で30.0-40.0mmに達しシラス期を終り、更に2ヶ月して体長60.0mmに達し早いものは成魚となる。

4)体長(Lmm)と体重(Wg)との関係は体長40.0mm以上のものではW=0.000121L2.95で現わされる。

5)脊椎骨数は、44.81±0.50~45.55±0.55の範囲で変異している。又発生別に分けると春期発生したものは 45.55±45.29、秋季のもの44.83~44.81であった。

6)雌雄の比は普通雌61.6%雄38.4%で雌が若干多くなっているが、成熟期(産卵群)においては雌の占める率がずっと多くなっている。成熟魚が50%以上を含む魚群では、多いもので84.1%、平均70.6%の高率を示し、本魚の産卵期における雌雄は特異の組成をもっている。

7)体長(Lmm)と鱗長(Tmm)との関係はL=22.08T+28.28で鱗が始めて形成されるのは体長28.0mm内外と推定される。休止帯(第1輪)が形成されるのは体長55.0~60.0mm頃である。

8)大阪湾におけるカタクチイワシの産卵は殆ど周年に亘って広範囲に行われるがその中心は、2-4月、9-11月の春秋2回あって産卵場は相当北部に偏し大和川尻を中心とした一帯が主な産卵場と見られる。

9)カタクチイワシは普通体長75.0-80.0mmで成魚となる。しかし秋季のものは体長55.0mm内外で卵巣の成熟したものもあり、春期に比べてかなり小形のものでも成魚となる。

10)カタクチイワシの生物学的最小形は、50.0-55.0mm程度である。

11)成熟度(卵巣)の表現(指度)は普通親魚として取扱われる体長70.0mm以上のものについては、卵巣重量50mg、卵巣長20mm、 KI 25 で現わされる。

12)抱卵数は体長76.1~93.8mmの親魚で、1296~3941粒、平均4583粒であった。但しこの卵数は第一次放卵と思われる長径0.60~0.86mmの大形卵(完熟卵)のみであって、更に第2次、第3次の放卵を行う様である。
卵数(N粒)と体長(Lmm)、体重(Wg)との関係はN=220.8W1・6、N=17L9.0×10-16 で現わされる。
又卵数重量(Wmg)卵数(N粒)との関係はN=10135w-136の直線の式で現わされる。

13)海中で採集された卵の大きさは長径0.6-1.0mmであった。而して、之等は孵化直前と思われるものであった。これはおそらく、カタクチイワシの産卵が夜間行われ、昼夜内外の短時日に孵化するためであろう。

14)仔魚は体長3.0mm内外のものは孵化直後のものと思われ、眼胞には未だ色素を欠き、且つ体側にも殆ど色素はなく臍嚢も残っていた。
体長5.0mmのものは相当広範囲に亘って採集され臍嚢も完全に吸収しており眼胞の色素も完成されていて背鰭と尾鰭とはやや分離し、鰭條の原基が見られている。