大阪府立環境農林水産総合研究所

図鑑

大阪湾の生き物図鑑

大阪湾の生き物

イカナゴ

大阪湾の春の風物詩といえば、イカナゴ漁。このイカナゴ、じつは1年の半分近くを寝て過ごすという、変わった習性を持つ魚です。
イカナゴは、もともと寒い北の海の魚で、お正月前後が産卵期です。卵は明石海峡や紀淡海峡(大阪湾と紀伊水道を結ぶ海峡)近くの海底の砂つぶに産み付けられます。卵は10日ほどでふ化し、海中にただよい出てきた子供は、海の流れによって湾内に広がり、餌(海中のプランクトン)を食べながらぐんぐん大きくなります。2月下旬から3月初めになると、体長3cm程に成長して、漁獲され始めます。これが、新仔(しんこ)とよばれ、生のものが「くぎ煮」用として店頭に並ぶようになります。


その後、4月頃にはイカナゴは再び海峡部付近に移動していきます。そして、水温が高くなる6~7月頃になると、体力の消耗を避けるため、海底の砂の中に潜って活動を停止します。これを「夏眠(かみん)」と呼びますが、イカナゴはそれ以後餌も食べず、12月まで砂の中でじっとしています。この習性は、彼らが北の海から南へ分布を広げるために身につけた、暑い夏を乗り切るすばらしい戦略です。12月頃になって水温が下がってくると、イカナゴは砂の中から出てきて、産卵をおこないます。満1才で親となります。


このように、イカナゴが生息するためには、海底の砂が必要不可欠です。私たちが兵庫県の水産試験場と共同調査した結果、砂つぶの直径が0.5~2mm程の、きれいな砂でないと夏眠できないことが分かりました。海の砂が工事用に採取されたり、陸からの汚水によって汚れてしまうと、イカナゴはその海域に住めなくなってしまいます。大阪湾の春の恵みであるイカナゴがいつまでも獲れ続けるよう、海の環境を守っていかなければなりません。

(イラストは大阪府提供)