大阪府立環境農林水産総合研究所

図鑑

大阪湾の生き物図鑑

大阪湾の生き物

ヒラメ

ヒラメは千島・樺太以南の日本沿岸、朝鮮半島・南シナ海沿岸に生息する全長1m、体重10キロになる大型魚で、ちょっと前までは寿司屋さんのネタの中では庶民の手がとどかぬ高級魚でした。しかし、最近では全国の水産試験場や栽培センターが種苗放流をし、マダイやハマチと同様に養殖も行われ、漁獲量が増加したので価格が下がり、回転寿司にも登場する身近な魚になりつつあります。ヒラメの名は平たい魚(め)に由来します。砂地の海底を好み、身体を砂に少し埋めて上面(左側)を砂の色・模様に似せ、岩の上では岩や周囲の色に体色を変化させ、エメラルドグリーンに輝く目をギョロギョロ動かしてエサを待ちます。運悪く通りかかった魚は海底から飛び出したヒラメに大きな口で噛みつかれ、鋭い歯をたてられてゆっくりと飲み込まれます。小型個体はゴカイやエビや小魚を、大きくなると魚やイカなどをエサにします。
 
 (イラストは大阪府提供)
 
天然のヒラメは上面が褐色、下面は白色ですが、人工種苗では正常な個体に加えて、全面が白や黒、白黒の斑入りなどの色素異常個体がみられ、これらはパンダ平目と呼ばれています。天然魚にも色素異常がありますが、白化個体は目立ちやすいので成長過程で捕食され、生き残るのは数十万~数百万尾に1尾くらいの確率です。こうした色素異常は、浮遊期の栄養不足や飼育水温の不適による鱗の異常や、着底期の飼育環境や照度の不適合による鱗の色素異常で起こります。飼育技術の進歩により栄養や飼育環境が改善され、色素異常個体は少なくなってきました。天然物と海に放流したヒラメでは肉の味に差はなく、十分に運動している魚の血合肉は鮮やかな赤色で、これで養殖物と見分けがつきます。
 
 
ヒラメはメスの成長が早いので、養殖にはメスだけを用います。海ではメスは1年で30センチ(オス25センチ)、2年で43センチ(35センチ)、 3年で53センチ(42センチ)、4年で61センチ(47センチ)、5年で68センチ(52センチ)になります。繁殖期は大阪湾では5月頃、南シナ海では1月、北海道では 7月と、地域差があります。産卵は分離浮遊卵0.9mmを数十万粒づつ間隔をあけて多回産卵し、1尾が500万粒(50センチ)ほど産みます。卵は2~4日で孵化し、ふ化仔魚は全長2ミリ、3日目に全長3ミリで開口し、動物プランクトンを食べ始めます。当初は普通の魚のように眼は両側にあって浮遊生活をし、14日後5ミリで仔魚の背びれ前端が伸びてきます。ふ化後22日10ミリで頭がねじれ右目も身体の左側に移動し、身体が扁平になって34日15ミリで着底します。40日20ミリで完全に底生生活に入り、63日40ミリで色も形も親と同じになります。
 
 
ヒラメは底びき網、刺網などで漁獲し、春から夏には30m以浅の海域に多く、冬は深い場所に移動します。大阪府では栽培センターが稼働した1992年以降は10万尾単位で種苗放流を行い、2008年には26万尾のヒラメを大阪湾に放流しました。このため、大阪府で漁獲されるヒラメのうち3~5割を放流ヒラメが占めるようになり、漁獲量も1955~83年は0~3トン、1985~92年は0~8トンであったものが、1993~2006年には5~12トンと漁獲が増加しました。周年美味しい魚ですが、旬は冬とされ、しっとりした白身は主に刺身や寿司にされ、煮物やムニエルにも使われます。

図2 ヒラメの成長

図2 ヒラメの成長