大阪府立環境農林水産総合研究所

図鑑

大阪湾の生き物図鑑

大阪湾の生き物

アイナメ

大阪湾で冬に元気な魚といえば、アイナメ。それと近縁のクジメがいます。アイナメは冬の釣りの対象魚として人気があり、釣人はアブラメ、漁業者はボウチョ、トバと呼んでいます。アイナメは全長45cm、クジメは30cmになり、体色は生息場所に合わせて黄褐色、赤褐色、茶褐色の地に、黒褐色の不規則な斑紋が入り、保護色になっています。アイナメやクジメは、カサゴやメバルと同じカサゴ目の魚で、カサゴ目アイナメ科に属します。これらの先祖は北方系ですが、アイナメとクジメだけは西日本から北海道、朝鮮半島南部、黄海と、比較的暖かい海にまで分布しています。居酒屋でお馴染みのホッケなどはアイナメに近い仲間ですが、これらは北海道周辺以北の海域に棲んでいます。アイナメは体側に振動や流れを感じる側線が5本あり、尾ビレの先端が角張っています。クジメは側線が1本しかなく、尾ビレの端が丸くなっていのが特徴です。
 
 
アイナメは浅い岩礁から水深50mの海に棲息し、クジメは浅い潮だまりや岩礁域や藻場に棲んでいます。どちらも元は北方系の魚であるため、繁殖は北風が吹き始める晩秋から初冬に行います。産卵期にはアイナメの雄は鮮やかな黄色の婚姻色をまとい、岩礁域や護岸の岩に縄張りをもちます。雄は雌を次から次へと誘い込み、岩の上に塊状の卵(凝集粘着卵)を産ませます。卵塊の色は雌の親ごとに青色、紫色、緑色など色合いが異なり、発生が進むと銀色っぽくなってきます。ふ化まで約1ヶ月かかりますが、すべての卵塊がふ化するまでオスが守ります。しかし、自分の卵以外には冷淡で、見つけると食べてしまいます。全長20cm以上で繁殖に加わり、卵は1月頃から孵化し始め、仔魚は波間に漂って育ち、背が青緑色、体側が銀色に光る稚魚になります。成長すると群から離脱し、全長5cmで岩礁域や藻場の海底へ移動し、周辺に溶け込む色模様に変化します。福島県では1年で14cm、2年で21cm、3年で26cm、4年で30cmに成長するそうです。
 
 
アイナメは夜行性で、昼は岩礁や護岸、防波堤などの間隙に隠れていますが、夜は活発にエサを探し回ります。肉食でカニやエビなどの甲殻類、ゴカイ類、ハゼなどの小魚などを捕食します。アイナメ釣りは根掛かりの多い岩礁域や防波堤、護岸ぎわを投げ釣りや穴釣りで狙います。アイナメは動く餌に反応する習性があり、餌が水中で動きやすいように、投げ釣りの胴付き仕掛けはハリスを長くし、餌がゆらゆら沈むように誘いをかけるのが釣果をあげるコツだそうです。産卵期の晩秋から初冬の成魚が岸近くに集まる頃や、特に産卵・孵化が終わる冬~早春頃の体力回復期は食欲が旺盛になり、一番の狙い時です。アイナメは酸素欠乏に弱く、冬場は水温が低く、溶存酸素濃度が高いので、それほどでもありませんが、夏場は釣った魚をバケツに入れると、高水温と酸素欠乏ですぐに口を開けて死んでしまいます。1982年まで播磨灘で多獲されるアイナメの稚魚を購入し、大阪府沿岸に放流していましたが、近年は播磨灘でも資源が減少し、放流もできなくなりました。大阪湾の漁業では底びき網、刺網、籠網、一本釣りなどで漁獲されますが、大阪府沿岸でも漁獲量が減少しています。これには近年の温暖化傾向で産卵期の冬場や夏場の水温上昇や貧酸素化などが影響している可能性があります。アイナメは周年美味しい魚ですが、身が肥える春から夏が旬といわれ、煮付け、薄造りや刺身、焼き物、からあげ、潮汁(椀だね)、木の芽焼きなどにして食べます。

(イラストは大阪府提供)