大阪府立環境農林水産総合研究所

 

大阪府水産試験場研究報告 第5号

大阪府水産試験場研究報告   第5号

全文(PDF 6.47MB)  目次(PDF 69.6KB)

 

  1. 大阪湾に排出される汚染負荷量の推移と海域環境の変化について
  2. 大阪湾における赤潮発生機構に関する研究(1974年8月 定点連続観測結果)
  3. 大阪湾における底質汚染の現況とベントスの生息状況について(1975年5月大阪湾底質調査結果)
  4. 大阪湾における底質とベントスのPCB汚染がマコガレイの体内濃度に及ぼす影響について
  5. 大阪湾における貧酸素水塊の発生状況
  6. 大阪湾におけるコノシロの漁業生物学的研究
  7. 大阪湾産タチウオの漁業生物学的研究
  8. 大阪湾産シャコの漁業生物学的研究
  9. 大阪湾のいわし巾着網漁業の漁獲物と漁場

大阪湾に排出される汚染負荷量の推移と海域環境の変化について

城 久・浜田尚雄
The Change of Pollutant Influx Load and Marine Enviroment in OSAKA Bay.
Hisashi Joh and Takao Hamada

大阪水試研報(5):1~25,1978
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(5):1~25,1978

本文(PDF 973KB)

要約

大阪湾に排出される汚染負荷量を昭和30年から年次別、排出源別に試算し、負荷量の増加にともなって海域環境がどのように変化したかについて検討した。

(1)大阪湾に排出される負荷量の試算結果は昭和46年にBOD712t/日、COD484t/日、SS621t/日、N215t/日、P24.5t/日となった。このうち兵庫県の寄与率は約1/4である。またBOD、CODでは産業排水が6割前後を占めるが、Pは生活廃水の占める比率(66%)が高い。

(2)排出負荷量は昭和30年から46年までの17年間にBOD、COD、SS等が2.5~3倍になり、N,Pは3.4~4.1倍と栄養塩類の増加が著しい。これは一般項目では生活廃水が昭和40年以降横ばいになるのに対し、N、Pでは最近にいたる迄産業排水と共に生活廃水も着実に増加しているためである。

(3)汚染負荷の増加に対応して海域環境も変化している。透明度は湾全域の年平均値で10年間に0.5mの割合で低下する傾向がある。海域的には湾中央部より西部、および泉南地先の海域が15年間に約1m低下した。

(4)Pは過去20年間に湾奥部で約5倍の濃度増加を示しているが、別途見積った流入負荷や、今回試算した排出負荷量の倍率とほぼ等しく、負荷量の増加がそのままの比率で海域環境の濃度増加となってあらわれている。

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大阪湾における赤潮発生機構に関する研究(1974年8月 定点連続観測結果)

城 久・矢持 進・西村 肇
Studies on the Mechanisms of Red Tide Occurrence in OSAKA Bay
Hisashi Joh ,Susumu Yamochi and Hajime Nishimura

大阪水試研報(5):26~41,1978
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(5):26~41,1978

本文(PDF 540KB)

要約

赤潮が頻発する大阪府中部沿岸海域で8日間の連続観測を行い、赤潮発生の動的過程と環境条件の関連について検討した。

結果の概要は下記のとおりである。

(1)夏期の鉛直水塊構造は高温・低かん・酸素過飽和・貧栄養の表層水と低温・高かん・貧酸素・栄養塩過多の底層水に分かれ、異質の水塊が重なっている。その堺面の深さは刻々変動するが、風浪が強まると1日以内に上下均一となり躍層は消失する。この結果底層に蓄積されている栄養塩は表層に供給され、次に大規模な赤潮を発生させる前提条件となる。

(2)夏期に貧栄養化した表層水塊では2~3日の短い周期でプランクトン優占種の遷移が繰返されており、躍層周辺部には濃密なクロロフィルの分布が観測された。これは上層から沈降するプランクトンが躍層の密度差によって沈降を妨げられるためと考えられ、赤潮末期の症状をとらえているものと解釈される。

(3)窒素塩が不足気味の表層水塊において、プランクトンの生産力は前日の無機態窒素濃度との関連が深い。このような海域でプランクトンはその増殖に有機態の窒素も利用しているようである。

(4)淡水の流入による海水の低かん化は赤潮の直接的な誘発要因ではない。今回の観測結果では栄養塩等が蓄積された底層水との上下混合が行われ、表層水に供給されたことが赤潮を誘発したものと考えられる。

(5)躍層形成時の底層水が貧酸素となり、それに対応してPO4-P、NH4-N濃度が高くなるのは内湾停滞水域特有の現象であるが、そのメカニズムはリンと窒素で大きな違いがある。PO4-PはAOU3.5までは水中有機物の分解・再生が溶存酸素と定量的な関係で行われる。3.5以上の還元的な雰囲気になるとそれに比例して底質からの溶出とみなされるPO4-Pが加わり、濃度が急激に増加する。 これに対してNH4-NはAOUとの関係で見かけ上PO4-Pと類似の傾向を示しているが、AOU3.5以上での急激な増加はNO2-N、NO3-Nの減少によって補われており、無機3態窒素とAOUの関係は一本の直線で近似できる。 従って極度に貧酸素化した底層水塊でのNH4-Nの急激な増加は見かけ上NO2-N、NO3-Nの脱窒による転換によって生じたものとみなすことが出来る。

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大阪湾における底質汚染の現況とベントスの生息状況について
(1975年5月大阪湾底質調査結果)

城 久・矢持 進・安部恒之
The Present Condition of Sediment Pollution and Benthic Community in OSAKA Bay,1975
Hisashi Joh , Susumu Yamochi and Tsuneyuki Abe

大阪水試研報(5):42~58,1978
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(5):42~58,1978

本文(PDF 2.14MB)

要約

大阪湾における底質の汚染とベントスの現況について各項目ごとに記載したが、その概略を要約すれば次のようにいえる。

(1) 窒素、リン、炭素等内湾の富栄養化に関連の深い元素はN=0.8~2.4、P=0.3~1.7、C=12~26(各mg/1g・乾泥)の濃度で含まれている。これらはいずれも湾奥北部で高くなるが、西宮~神戸沖で孤立して高い分布が現れることが多く、この海域に収束する環流が存在する可能性がある。

(2) PCBは0.01~1.2ppmの濃度分布を示す。最高値は神崎川河口で検出され、湾中央部に向って次第に減少する。その鉛直分布は湾奥部ほど上層での濃度勾配が大きく、かつより下層にまでおよんでいる。ほとんど検出されなくなるのは尼崎沖の海域で30cm層、泉大津、淡輪沖の海域で20cm層となった。

(3) COD、IL、全硫化物等有機汚染指標の分布もN.P.C等と類似のパターンを示し、湾奥北部で高く泉州沖海域にかけて高い分布が現われる。これに対して泉州沿岸部、20m以深の中央部海域、湾口部に近い岬町地先ではいずれも低い分布を示している。

(4) 泥率組成を考慮した底質汚染の現況は芦屋~大阪港を結ぶ線以北の湾奥が重汚染海域であり、堺・泉北沿岸部を除く神戸港~大津川河口以北の湾奥海域が汚染されていると判定される。その影響は西方向には向わず、南下して泉州沖合海域に徐々におよんでいる。これはこの海域で卓越する時計廻りの恒流によるところが大きい。

(5)底生動物については、5月調査にしては全般的に種類数や個体数がいくらか少なく1~16種 、1~205個体の範囲で採取された。分類群別編組比率は多毛類が圧倒的に多くPrionospio pinnata 、Lumbrineris brevicirra の優占する湾奥北部、泉州地先で90~100%を占めている。明石・友ヶ島を通じる外海水との交換の影響は種類数、多様度指数、やや沖合の種類(Sthenolepis yhleni 、Sternaspis scutata 、Prionospio marmgreni)水の動きがよく砂地を好む種類(Spiophanus sp. 、Sabellaria ishikawaensis)の出現などに現われており、これらの種類は湾中央部以東、樫井川以北のP.pinnata、L.brevicciraが優占する湾奥海域には出現しない。これは通念的な大阪湾の汚濁水塊や赤潮多発海域、貧酸素水塊発生海域とよく合致していて、これらの5種が出現しない湾奥海域は内湾沿岸水の卓越する海域と考えられる。ただ男里川河口周辺および神戸沖海域等両者の緑辺部ではL.brevicirra、 P.pinnata等汚染性の多毛類も同時に出現しており、この海域では時によって両者の水塊が交互に影響しあっているものと考えられる。

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大阪湾における底質とベントスのPCB汚染がマコガレイの体内濃度に及ぼす影響について

矢持 進・安部恒之・城 久
Influence of PCB Contamination of Sediment and Benthic Animals on the PCB
Concentration in Flatfish from OSAKA Bay
Susumu Yamochi ,Tsuneyuki Abe and Hisashi Joh

大阪水試研報(5):59~70,1978

Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(5):59~70,1978

本文(PDF 573KB)

要約

大阪湾産マコガレイを海域別に採取し、生息環境としての底質と餌生物であるベントスのPCB汚染との関連、魚体の成長に伴うPCBの蓄積状況等を併せて検討した。得られた結果の概要は以下の通りである。

1.底質濃度とベントスのPCB体内濃度の間には、非常に密接な比例関係が認められ、ベントスの濃度は、その生息海域の底質濃度の約1.6倍となっている。

2.北部及び南部海域のマコガレイの平均PCB濃度は、北部カレイ(0.83ppm):南部カレイ(0.39ppm)=約2:1であり、環境濃度の高い北部海域で、カレイの体内濃度も高く、環境汚染に対応した結果を示した。

3.マコガレイの成長段階別に体重とPCB濃度の平均値を求め、成長に伴うPCBの蓄積状況をみると、その関係は非常に明確で、体重に対してPCB濃度は、北部カレイ;Pc=0.32W0.21、南部カレイ;Pc=0.02W0.55で近似できる。したがって、マコガレイでは魚体の成長に伴ってPCB濃度も増加し、PCBの体内濃縮が行われていると言える。

4. 成長段階別の平均値でみた脂質量とPCB量の間には一次に近い比例関係が存在し、また脂質中のPCB濃度は成長にかかわりなく、北部:南部=2:1であることから、カレイの生息海域別の濃度差は脂質中のPCB濃度の相違に起因すると思われる。

5.北部カレイと南部カレイの平均PCB濃度比(2:1)は、湾北部と南部の底質の濃度比(3:1)より、むしろベントスの濃度比(2:1)に一致しており、更にPCB塩化物組成についても、カレイの組成は底質よりベントスの組成と非常に類似している。このようなことから、カレイの環境汚染に対応した海域別の濃度差は、主として餌生物であるベントスのの濃度差がカレイの脂質中の濃度に反映されたことによると考えられる。

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大阪湾における貧酸素水塊の発生状況

城 久・矢持 進・安部恒之
Formation and Decay of Oxygen-deficient Water Mass in OSAKA Bay
Hisashi Joh ,Susumu Yamochi and Tsuneyuki Abe

大阪水試研報(5):71~84,1978
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(5):71~84,1978

本文(PDF 466KB)

要約

大阪湾に出現する貧酸素水塊の実態を平面的・鉛直的に把握し、その消長と気象要因との関連についても若干の検討を行った。

(1) 飽和度50%以下の貧酸素水塊は最初5月中旬に湾奥東部沿岸に出現したが、一旦消滅後5月28日に再現し9月末まで湾奥海域・東部沿岸海域に存在する。

(2) 飽和度10%以下の無酸素水塊は7月23日~8月23日までの約1ヶ月間湾奥部・東部泉州沿岸域で発生したが、その海域面積は200~300km2と大きく湾の1/7から1/5を占めている。

(3) 湾長軸の鉛直断面分布では上層は過飽和水塊、下層は貧酸素水塊となり濃度の鉛直勾配が非常に大きい。この時は上層ではN、Pは無機態が減少して有機態に、底層では貧酸素化に対応して無機態の栄養塩が増加している。

(4) 貧酸素水塊の海域における拡がり面積は表層と底層の水温鉛直差とよく対応する。そしてその発達は気温と降水量との関連が大きいことから、海水交流の緩慢な湾奥部・東部沿岸海域で塩分の低下と気温の上昇が躍層を強固なものに発達させ、上層から底層水塊への酸素補給を絶つことがそれを形成する原因として重要な役割を果たしているものと考えられる。

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大阪湾におけるコノシロの漁業生物学的研究

吉田俊一・林 凱夫・辻野耕實
Fisheries Biology of the Japanese Gizzard Shad in OSAKA Bay
Syunichi Yoshida ,Yoshio Hayashi and Koji Tsujino

大阪水試研報(5):85~98,1978
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(5):85~98,1978

本文(PDF 577KB)

要約

(1) 大阪府下のコノシロ漁獲量は1954年の13トンから、1972年には3866トンと増加している。漁法は定置網から囲刺網、小繰網など能率的になり、1970年からは巾着網による漁獲も加わってきた。定置網におけるコノシロの混獲割合、およびCPUEが増加していることから、資源水準が上昇して漁獲が増加したと推察される。また需要増加に伴なう漁獲強度の増大も漁獲量増加の原因である。

(2) 漁法や漁場の季節的推移、および漁獲物の体長組成などから、大阪湾のコノシロは周年湾内の岸近くに生息することがわかった。季節的には冬期は工場などの温排水が放出される水路や南部沿岸など僅かに水温の高い海域に移動するようである。若年魚4~11月の期間、索餌のため湾奥部に集まっているようで、この群を巾着網・小繰網および囲刺網など能率的な漁具で漁獲している。

(3) 漁獲体長は110~250mm、年齢は1~6才で、鱗における輪紋形成期は11~1月、その形成原因は冬期の成長遅滞に基ずくものと推測される。

(4) 抱卵数は6万~27.6万(1~5才魚)、生物学的最小型は129mm、性比は0.607と雌が多く、大阪湾での産卵期は4月下旬から8月下旬の間、その盛期は7月である。浮遊卵の出現海域の表層水温は16.5~27.0℃であった。

(5) 大阪湾産コノシロ脊椎骨数は47~50、そのモードは49であった。

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大阪湾産タチウオの漁業生物学的研究

林 凱夫
Fisheries Biology of the Ribbon Fish,(Trichiurus Iepturus LINNE)in the OSAKA Bay
Yoshio Hayashi

大阪水試研報(5):99~115,1978

Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(5):99~115,1978

本文(PDF 634KB)

摘要

1965~1973年の水産統計と、1971~1973年までの漁況ききとり調査結果、およびこの期間に大阪湾で漁獲されたタチウオ1,450個体を用いて、大阪湾産タチウオの漁業生物学的研究を行った。

1) 大阪湾におけるタチウオの増加は1966年からその兆しがみられ、1967年には本種を対象としたひきなわ釣等の操業が開始された。1969年には漁獲量が1,000tを越え、1971年がピークで、2,179tとなり、その後1,000t前後でやや安定している。

2) 釣(ひきなわ釣、一本釣)による漁獲が50~85%を占め、その他船びき網、小型底びき網、小繰網、囲刺網、小型定置網等により漁獲されている。

3) 水温上昇期に紀伊水道方面から湾内に入ったタチウオは、外洋水とともに岸沿いに湾中部まで進み、この辺から湾奥系水の強い沖合、および湾奥へ分布する。水温下降期になると、湾奥系水にしたがって沖合を南下し、低水温期に入る前に湾外へ去る。

4) 湾内におけるタチウオの漁獲は、主に5~12月の水温15℃以上の時期である。水温の上昇および下降と、月別漁獲量の増減傾向に一致がみられる。水温10℃以下になると、ほとんど漁獲されないところから、10℃付近が生活水温の下限と考えられる。

5) 性比(雄/雌 ×100)は小型個体で大きく、大型個体となるにつれて小さくなる。平均76を示す。

6) 生殖腺熟度指数(GI=GW/AL3×108)は、季節を問わず大部分が50以下を示し、湾内ではほとんど産卵されない。

7) 湾南部海域で、7、8月に体長45~100mm、10~12月に体長20~70mmの幼・稚魚が出現しており、紀伊水道で春期およ秋季に発生したものと考えられる。

8) 確率紙を用いて分離した同一発生群の平均体長の推移、および幼・稚魚の出現時期などから、体長200mmに達するには、春期発生群(4~6月発生)でほぼ1年、夏・秋季発生群(8~10月発生)ではこれより2~6ヶ月長いと考えられる。 

9) 耳石に輪紋(第1輪)の出現する時期は、春期発生群で発生後満1年を経過した4 ~7月、夏・秋期発生群で1年~1年4ヶ月を経過した10~2月である。いずれも体長 180mm以上の個体で出現している。

10) 春期発生群の5月上旬(体長160mm、体重69g)から10月中旬(160日経過後、体長280mm、体重365g)までの湾内における成長は次式で表わされる。Xは経過日数を示す。
     体長   AL=1.76X0.831+160    体重   BW=2.72X0.936+69

11) 耳石径(l、mm)と体長との関係は、
l=0.016AL+1.27 で表わされる。

12) 体長と体重との関係は、
BW=3.33×10-5AL2.868 で表わされる。

13) 胃内容物調査の結果、軟体類、甲殻類、魚類等33種類の餌料動物が識別された。

14) 体長75mmまでの個体は動物性プランクトンを捕食し、76~175mmまではエビ、カニ類等甲殻類が主餌料で魚類も多少捕食され、176mm以上になると魚食性に移行する。

15) 体長200mm以上の個体の胃内容物組成(重量)は、6~10月の平均でカタクチイワシ71.0%、マイワシ15.4%、マアジ3.9%、マサバ3.6%、エビ類2.3%である。なお胃内容比(胃内容物重量/体重×100)は、平均1.74%であった。

16) 以上の結果から、湾内におけるタチウオ急増加の原因として、A近接海域(紀伊水道)に産卵場が形成された。B成長が早く、成熟に達する期間も満1年で、他の高欠捕食魚と比べて非常に短かい。C各成長段階に応じた餌料生物が豊富に存在する。D強大な競合種が他にいない。ことなどが考えられよう。

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大阪湾産シャコの漁業生物学的研究

林 凱夫・辻野耕實
Fisheries Biology of the mantis-shrimp,(Oratosquilla oratoria de HAAN) in the OSAKA Bay
Yoshio Hayashi and Koji Tsujino

大阪水試研報(5):116~135,1978
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(5):116~135,1978

本文(PDF 787KB)

要約

1) 大阪湾のシャコ漁業と口脚類(Stomatopoda)の出現種類およびシャコ(Oratosquilla oratoria)の生態についてとりまとめた。  

2) シャコは石げた網(1~5月)、板びき網(6~10月)、えびこぎ網(5~12月)等の小型底びき網で漁獲され、1972年の漁獲量は719tで、それぞれの漁獲割合は順に62%、35%、3%である。大阪府の漁船によるものは87%、兵庫県13%である。また1963~73年の間で、府下海面漁業総漁獲量の1.5~2.4%を占め、その変動巾は小さく、資源量は比較的安定している。

3) 月別の漁獲状況および価格の変化からシャコ漁業の盛期は、3、4、5月であり、この時期に30~40%が漁獲される。

4) 1973年の府下底びき網漁船による1日1統あたりシャコの漁獲量は、12.3kgであり、価格は年平均217円/kgである。地元消費のほか、東京方面へ出荷される。

5) シャコは大阪湾のほぼ全域に分布するが、漁場は湾中部から北部の大阪府側で、水深10~20mの陸水の影響を受ける。(塩分量31.4~32.9‰)潮流の緩やかな海域である。底質は有機物に富んだ比較的やわらかな泥である。試験操業からも、この海域におけるシャコの生息密度は高い。

6) 大阪湾にはシャコOratosquilla oratoria、スジオシャコAnchisquilla fasciata、セスジシャコLophosquilla costata、トゲシャコHarpiosquilla raphidaeの4種が出現する。個体出現率の94%をシャコが占め、本種が漁業対象種となっている。

7) シャコの性比の最大は6月で148.3、最小は1月で56.9、年間平均値は87.2である。

8) 体長と体重の関係は次式で表せる。 
雌:W=0.01298L3.0011(BL=4.6~16.7cm) ;雄:W=0.01111L3.0760(BL=4.6~15.6cm)

9) 肥満度(Ponderal Index)は夏期に小さく、冬期に大きい。8月を除き雄の方が雌より大きい。

10) 産卵期は5月中旬~9月上旬である。環境水温が13℃前後となると産卵を開始し、水温下降期に入るとともに終っている。生殖腺熟度指数の状況から5月と8月の2峰性が認められる。

11) 孕卵数は、体長9~10cmで4~6万粒、10~12cmで6~8万粒、12~17cmで8~14万粒である。体長と孕卵数との関係は次式で表せる。
E=(12.08L-62)×103

12) 体長組成に表われたモ-ドの時間的追跡により、年齢と成長を求め、次の成長方程式を得た。
Lt;年令tにおける体長(cm)
早期発生群(5、6月発生)  Lt=25.0[l-e-0.288(t+0.548)]
晩期発生群(8月発生)  Lt=19.5[l-e-0.511(t-0.130)]

13) 成熟体長の9.0cmに達するのは、早期発生群では満1年経過後の翌年6月頃で、この年の産卵に参加し、晩期発生群では1年4ヶ月後の翌年12月頃であり、産卵に参加するのは翌々年の春期以降となろう。

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大阪湾のいわし巾着網漁業の漁獲物と漁場

林 凱夫
On the Catches and Fishing Ground of Sardine Purse Seining in OSAKA Bay.
Yoshio Hayashi

大阪水試研報(5):136~160,1978
Bull.Osaka Pref.Fish.Exp.Stat.(5):136~160,1978

本文(PDF 1.21MB)

要約

1) 大阪湾におけるいわし漁業の資源動態、漁場形成、漁獲物の仕向状況等を把握し、さらに漁況予測に利用する資料を得る目的で実施したいわし巾着網漁業日誌調査、および関連調査の1970年から1976年までの結果について整理した。

2) 大阪府のいわし巾着網は中型まき網として許可され、1統あたり網船2隻、手船2~3隻、運搬船の5隻の構成で、乗組員は35人前後である。そのほか陸上作業(水揚げ)に4~5人が従事する。

3) 漁期は6~10月で、出漁日数は90日前後である。1日あたりの投網回数は4~6回、操業時間は平均14時間強である。

4) 1970年以降では7~10統が着業し、1万6千~3万1千tの漁獲量を揚げている。漁獲量は経年的に増大傾向を示しているが、主要漁獲物のカタクチイワシの価格が1970年の1kgあたり15円から1976年の20円と停滞気味である。

5) 標本船の漁獲物は大きく分類して、カタクチイワシ、マイワシ、その他の魚類に分けられ、1972年まではカタクチイワシが95%以上を占めていたが、この年から漁獲され始めたマイワシの組成が次第に大きくなり、1976年には30%強となった。なおその他の魚類は各年とも7%以下である。

6) カタクチイワシはほぼ8月下旬から9月下旬にかけ大量に漁獲され、マイワシは6、7月を中心に漁獲されている。CPUE(1投網あたりで表わす)の値もこの時期に大きい。

7) カタクチイワシの羽別組成は、大羽5~35%、中羽20~70%、小羽3~45%で、中羽以下の未成魚が65%以上占める。

8) カタクチイワシの発生時期別組成は、太平洋南区春仔群35~90%、内海春仔群5~60%、内海夏仔群1~30%、内海秋仔群3~6%である。

9) 大阪湾で漁獲されるマイワシは0才魚で、初漁期の6月に体長5~8cmのものが10月には13~14cmに成長する。

10) カタクチイワシは餌料として60~98%、加工材料2~40%、鮮魚0~2%、マイワシは餌料20~90%、加工材料2~40%、鮮魚4~70%の仕向け割合である。餌料は三重県、和歌山県へ、加工材料は地元および三重県へ、鮮魚は京阪神方面へ出荷される。

11) 漁場は神戸(和田岬)と深日を結ぶ湾奥部で、水深20m以浅の海域にほぼ限られる。その海域のうち、堺~貝塚沖漁場での漁獲量が最も多く27~68%を占め、次いで順に神戸~西宮沖5~65%、尼崎~大阪沖5~33%、泉佐野~深日沖3~19%の割合である。

12) 総体的にマイワシは湾奥部の低かん海域に、カタクチイワシは大阪府側の高かん海域(マイワシ漁場と比較した場合)に漁場が形成される。これはそれぞれの種類に適応した餌料生物の分布に基づくものと推察される。

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