大阪府立環境農林水産総合研究所

薬の使用法

薬の使用法

水産用医薬品・観賞魚用医薬品の使用に当たっては最新の添付文書をよくお読みの上、使用できる魚種・適応症、用法・用量・使用上の注意・休薬期間に従って使用してください。

 

薬の種類

 魚病の治療・予防のために使われる薬は、水産用医薬品として承認されているもののほかに鑑賞魚用の薬および普通の化学物質や天然物質があります。これらを用途別に分類すると表のようになります。
 なお、水産用医薬品は販売許可を取っているお店で、鑑賞魚用の薬は観賞魚店で、その他の一般薬は薬局でそれぞれ購入できます。 
魚病用薬剤の種類(主として淡水魚)
薬剤の種類 用途 使い方
抗菌剤 サルファ剤(スルフイソゾールなど)

フラン剤(二フルスチレン酸ソーダなど)

抗生物質(クロルオキシテトラサイクリンなど)

その他の合成抗菌剤(オキソリン酸など)

細菌病の治療 経口投与

薬浴

生物学的製剤 アユのビブリオ病不活化ワクチンなど ビブリオ病の予防 薬浴
駆虫剤

トリクロルホン

外部寄生虫(イカリムシ・ウオジラミ)の駆除 薬浴
消毒剤 逆性石鹸

サラシ粉

次亜塩素酸ソーダ

池・水槽・器具などの消毒 薬浴
栄養剤 ビタミン剤 ビタミンの補給 経口投与
胆汁未製剤 消化吸収促進
麻酔剤 オイゲノール 魚の麻酔 薬浴

薬による治療法

 薬による治療法は次の表に示すように主に経口投与法と薬浴法の2通りがあります。いずれも水槽や池全体の魚を対象にした治療法です。このほか、観賞魚では1尾ずつ取り上げて寄生虫を取り除いたり、病患部に薬を塗ったりする方法もあります。 

薬の使用法
薬の使用法 用途
経口投与法 餌の中に薬をしみこませて魚に食べさせる。 食欲のある魚を対象に細菌病の治療に用いる。
薬浴法 永久浴 養魚池や水槽に直接、薬を散布して放置しておく。 食欲のなくなった細菌病の魚や寄生虫病の魚の治療に用いる。
短時間浴 魚を取り上げて薬液に泳がせ一定時間後に魚を取り出す。

経口投与の仕方

  1. 投薬量は魚体重1kg当り0.2gというように魚の体重で決まるので、治療対象魚群の総体重を<尾数×平均体重>で推定します。
  2. 投薬は薬に添付されている文書の用法・要領にもとづいて実施してください。一回だけの投薬では効果がなく、普通3~7日間毎日与えなければなりません。
  3. 薬は餌に均一に混合し、できるだけ全部の魚にいきわたるように与えます。

 

水に溶ける薬
固形飼料(粒状の餌)では餌の1割の水に薬を溶かし、じょうろや噴霧器で餌に均一にふりかけしみこませます。
水に溶けない薬
フィードオイル(餌に混ぜる油)に薬を分散させ餌とよく混合します。
市販の展着剤を使えばより確実に薬に混ぜることができます。
 
  1. 薬の吸収を高めるため餌の量は平常の半分くらいにします。
  2. 具体例

「平均体重1kgの錦鯉30尾に水溶性の薬を魚体重1kg当り0.2g、7日間投与する。通常一日300gの餌を与えているとする。」

  • 総体重は<尾数×平均体重>だから30尾×1kg=30kg
  • 投薬量は<魚体重1kg当り×総体重×投薬日数>だから0.2g×30kg×7日間=42g
  • 七日間の餌の量は<通常の半分でよい>から300/2g×7日=1050g
  • 薬を溶かす水の量は<餌の1割>だから1050g×0.1=105g(コップに半分の水)

コップ半分の水に薬42gをよく溶かし、その薬液を1050gの餌に均一にふりかけしみこませます。これは7日分なのでビニール袋などに入れ冷蔵庫に保管し毎日その1/7を魚に与えます。

薬浴の仕方

  1. 池に薬を散布する場合は水量[面積(㎡)×平均水深(m)=水量(m3.トン)]を正確に算出し、薬浴濃度に見合った量の薬剤を散布します。
  2. 薬の濃度が均一になるように容器の中で薄めてから池全体に散布します。
  3. 狭い容器にたくさんの魚を入れて短時間浴をする場合はエアレーションなど十分にばっ気して酸素欠乏にならないようにしてください。
  4. 薬浴の実施前日と当日は餌を与えません。
  5. フラン系の薬剤(黄色の薬)は光で分解するので光を避けて薬浴するか、もしくは夕方散布するようにしてください。

治療効果の判定

 通常、投薬後2~5日で投薬効果が現れ、死ぬ魚が減ったり摂餌が回復など症状の改善が見られます。もし、5日以上経過しても症状の改善が見られない場合には、薬は効かなかったと判断してください。最初に戻り診断に誤りはなかったか、投薬量・投薬期間の不足などがなかったかを調べ、治療をやり直します。なお、正しく診断されていても耐性菌(薬が効かなくなっている病原菌)による発病などもありますので不審な点は生物多様性センターまでお問い合わせください。

薬による消毒法

 毎年のように病気が出る池は、底泥などの環境中に病原体が常在していることが多いので、魚を取り上げたあと池底が干乾びるまで日干しするか、あるいは薬を用いて消毒する必要があります。消毒剤を散布するときは、マスクやゴム手袋を着用し薬が体にかからないよう注意してください。

消毒薬の種類とその使用法
消毒するもの 消毒薬の種類 使用法 使用上の注意
ガラス水槽・網などの飼育器材 逆性石鹸

熱湯

100倍に薄めた液を噴霧する。

100℃ 5分間

*消毒後水洗いしてから使用する。
コンクリート池で水がない場合 高度さらし粉(有効塩素60%、粉末)

次亜塩素酸ソーダ(有効塩素10-12%液体)

1,000倍に薄めた液を噴霧する。

200倍に薄めた液を噴霧する。

*魚毒性が強いので液が池外に流出しないよう注意する。雨天には消毒しない。
ため池で水がない場合 生石灰(CaO) 500-1,000kg/haを池全体に散布する。 散布後2~3週間後に水をため、魚を放養する。
ため池やコンクリート池で水が残っている場合 高度さらし粉

次亜塩素酸ソーダ

水1トン当り0.02-0.04kg散布する。

水1トン当り0.1-0.2ℓ散布する。

一週間ほど放置すれば有効成分の塩素(カルキ)はほぼ消失するので水を増やしてから魚を入れる。

薬の適正使用

 薬は使い方を誤ると治療効果がなくなるばかりか、副作用や耐性菌の出現などによりかえって魚に害を及ぼします。また、食用として出荷する魚に薬が残留しないよう休薬期間(薬を最後に与えてからその魚を出荷してよい時期になるまでの期間)を守ったり、薬による環境汚染を引き起こさないよう次の点に注意し正しく薬を使用してください。

  1. 魚病の予防には、適正な飼育密度を守るほか給餌や水質管理など日頃の飼育管理が重要です。もし投薬が必要になっても、必要最小限の使用にとどめ、安易に薬に頼ることのないようにしてください。
  2. 水産用医薬品および鑑賞魚用の薬については、薬に付いている文章に記載されている用法・用量・使用上の注意・休薬期間に従って使用してください。